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2025年12月17日(水)にてダイバーシティフォーラム「Spiral UP!」を開催し、6社より社員250名が参加しました。
Co-ALIVE(食品企業共同企画)では、2018年よりダイバーシティフォーラム「SPIRAL UP!」と題し、その年のテーマの第一人者の方とそれを実践している企業の方をお招きし、講演を行ってきました。
「SPIRAL UP!」の取り組み、目的についてはこちらからご覧ください。
▶About us
今回のテーマは「人的資本経営とDE&I」。
改めて人的資本経営を捉えなおし、その観点からDE&Iの必要性を再確認する講演となりました。
基調講演に、学習院大学経済学部経営学科教授・一橋大学名誉教授の守島基博教授をお招きし、
企業での人的資本経営における、経営戦略とDE&Iとの関係性等についてお話しいただきました。
本記事では、当日の講演内容、質疑応答の様子、受講生の感想などをご紹介します。
◆講演
講演冒頭では、日本経済が辿ってきた変化と、人的資本経営の根幹について、改めてご解説いただきました。
「”人”しかもう企業の差別化の源泉はないという時代です。
10~15年ぐらい前までは、”技術”で差別化します、”資金”で差別化しますということをやってきた。
けれども今、技術も資本も、”人”という資本を無視しては展開できないという時代になってきています。かつ人手不足になっています。人材不足の中で、人という資本を確保しないと企業の差別化・成長ができない。企業価値の向上がない、という時代に入ってきたのです」
「さらに、人的資本経営っていうのは優秀な人材を確保するというだけではダメで。
そういう人材がどれだけちゃんと活用されているのか。経営目的や戦略の実現のために使われているのかというところが大きい。そこまで持っていって初めて人的資本経営は成立します」
さらに、そうした人的資本経営への注目の高まりが、DE&I経営のニーズに結びついていく流れをお話いただきました。
「また、多様な人材を確保し活用し、イノベーションをうまなくてはいけない、そういう時代に入ってきています。
多様な人材の活用のための重要な経営戦略が、私はDE&I経営だと思っています。
つまり、多様な一人ひとりが戦力となり、企業の経営目標の実現のために頑張ってくれる、そういう経営を作っていくための経営戦略です。」
「DE&I経営の最終的な目的は、多様な人材の考え方・視点・経験などを活用して創発的なイノベーション=現場初のモチベーションを起こすことです」
「イノベーションとは、多様な視点の統合なんですね。多様な視点から出てくる考え方・意見・視点を組み合わせて、新たなものを生み出していく。これは創発的なイノベーションと呼ばれ、日本の企業がずっと得意としてきたところです」
「スイスのビジネススクールが『日本の競争力がすごく下がっている』というデータを示しています。その背景のひとつが『現場発のイノベーションがなかなか起こらなくなってきたからだ』と議論しています。創発的イノベーションは、現場発のイノベーションあるいは知識創造です。
そのため、DE&I経営を用いて、多様な視点を集めて現場発のイノベーションを起こしていくということが、これからもイノベーションを通じて日本の企業が強くあり続けるために必要なのです」
その後、日本の労働者の価値観の変化や、それによって起こりうる企業と社員の「心のミスマッチ」とエンゲージメントの関係性についてご解説いただきました。
講演の結びでは、ここまで触れてきた社会・企業経営の変化の中で、具体的にどのようなアクションを取っていくべきか、人と組織、2つの観点からご提言いただきました。
「今までのような、インクルージョンやエクイティのない働かせ方ではなくて、働く人たちが持っているニーズや個性にできるだけ対応して、(その人たちを)戦力にしていく。私は、これが、DE&I経営で重要な”個の尊重”であろうと思っています。
もうひとつが、働く人の心を重視したリーダーシップです。経営のパーパスや戦略・ビジョンを中核にしながら、一人ひとりが持っている多様化したニーズ・個性に対応していく」
また、組織については、
「部・課、もしくはその中にいる個人に対して、どこまでエンパワーメントをするのかも、組織デザインの大きなポイントだと思います。
ただし、エンパワーメントっていうのは、単なる権限移譲ではなく、『できるようにしてあげる』こと、エンパワーしてあげることなんですね。
権限を委譲するだけでは不十分です。『自分で意思決定する権限はあるんだけれども、それを実行するリソース・能力がない』と、エンパワーメントではありません。
なぜこれがDE&I経営の中で重要かというと、(エンパワーメントができていないと)働く人たちの持っている個性・多様性・異なった経験、今までの培ってきた能力などが使いきれないからです。
持ち腐れの状態が起こってしまうのです。ですから、DE&I経営では、組織構造をデザインして、エンパワーメントをやっていく必要があります」
「日本は強く『現場』っていうものを重視していった国ですが、現在現場の力が落ちています。それによって日本の企業全体の競争力が落ちているという解釈をする研究者もいます。
だから現場をもう1回強くするって意味でも、DE&I経営をやっていかないといけないのです」
◆質疑応答
講演パート終了後、活発に質疑応答が行われ、講演内容が深く掘り下げられました。
質疑の一部をご紹介します。
Q: 投資家から見て、人材活用の指標で良いとされる代表的な例はありますか?
あるとしたら、何が良いと評価されているか知りたいです。
A:
実は「いい指標」は、ないといえばないんです。
よく使われるのは転職率ですが、転職率は日本企業では一般的に低くて、変動も少ないので、あまり役に立ちません。
そんな中、投資家も非常に注目している指標にエンゲージメントスコアがあります。
エンゲージメントは業績など外的要因で変動する側面もありますが、やはり人材・その人がどのようにマネジメントされているか・扱いを受けているかということによってかなり変わってきます。なので、投資家も興味を持っている。人材”活用”の程度に関する指標という意味では、やっぱりエンゲージメントだと思います。
Q:権限委譲をもっと進めていきたいと考えています。ただ、メンバーに任せたいがスピードを考えると自分がやった方がいい、もしくは期待するレベルのものが成果物として上がってこないなどの問題も出てきます。権限委譲を進める上で、重要な視点があれば教えてください。
A:
現場の管理職の方々は「権限委譲って大変だ」と思われるかと思います。
特に、日本はマイクロマネジメントが得意な国です。朝昼晩と進捗を管理し、確認する、そういう中では、権限委譲はなかなか進まないし、働く方も移譲されたという感覚になかなかならない。朝指示を出して、昼に「どうだった?」と確認しても、どうしようもないことがあるでしょう。
だから重要なのは、「柱の陰から見ている」ことです。
つまり、権限は委譲した。何を成果として出してほしいのかも握った。プロセスというものを権限委譲した。それをある意味では、朝昼晩と監視するのではなく、「柱の陰から見ていて」、大きくずれた時には、介入してあげる。
また「委譲」の範囲には、権限・情報・その人ひとりでは難しいなら人をアサインしたり、ヒト・モノ・カネもセットで含まれます。なかでも、時間は重要な資源なのです。
あんまり育ってない人、やっぱり時間という資源をあげないと育ってこないんですよ。そこのところもうまく塩梅して、人的資本として活用していきましょう。
Q:戦略転換を前提とした人的資本経営は、人口減少・流動化が進む日本において一律に有効な手段なのでしょうか。中長期的な視点で語られる人材戦略と、短中期の経営戦略の整合性を持たせることは可能なのでしょうか?
A:
いい質問だと思いますし、よくいただく質問です。
「戦略に人を合わせる」のが戦略人事の基本です。それは確かに正しいし、そこが全然合っていないという状態じゃ困ると思うんですが、
日本の場合、やっぱり「人(人的資本)から戦略を作る」という部分もある程度残していくべきだと思うんですね。
(そういう意味で)某フィルム会社のトランスフォーメーション、つまり変革は、世界の経営史的に見て、これから語られる重要な事例だと思います。
それを成し遂げた一つの大きな理由は、最初に人事とか社長さんが「うちの企業ってどういう人的資源、資源、資本があったんだっけ」をまず考えたんです。「ものすごく優秀な化学の技術者がたくさんいます」。「じゃあそれを使って、どういう戦略を立てていったらいいんだ?」正確にそう考えたかはわかりませんが、結果はそうなっています。その後、同社は医薬・化粧品に入っていくわけですね。
ほとんどのフィルム会社はデジカメに行ったんですよ。デジカメは機械ですから、化学と全然違うんです。だから化学の人たちに辞めてもらって、機械メカや光学の人を雇うしかなかったんだけど、他社もみんなそこに参入してくるので、人材の獲得競争も激しくなって難しい。
その時に同社は「うちの企業、たくさん優秀な化学者がいます」を見つけた。今いる人的資本を使って次の戦略を立てるというルートもあると思います。
もちろん(人的資本と戦略の)マッチングはしなきゃいけないし、ある程度の時間内にマッチングしなきゃいけないんですけれども、その時の起点を「戦略」に置くのか、それとも「人材」人的資本に置くのかは、考えなくてはいけません。
まずはどういった資本を持った従業員が多いのかっていったところを見極めなきゃいけない。例えば、「うちの企業最大の競争力の源泉は、工場現場です」という場合も十分あるわけです。熟練工さんであるとか、真面目なワーカーさんであるとか、そういう人たちを起点として次の戦略を考えていく。まあ逆に言えば「戦略を大きく変えない」という選択もありえます。
例えば、某製鉄会社さんは「今でもこれからのメンバーシップ、雇用をずっと続けていく」と戦略的におっしゃったんです。同社の競争力の源泉は工場にあります。工場の現場の力を使って、どのように品質の高い鉄を作り続け、他企業と競争していくのかをずっと考えている。そういう時には、「戦略を変えない」という重要な戦略であるわけです。
◆受講生の声(講演終了後アンケートより)
「一昔前だと会社都合での人事異動や配置が普通だったが、『この上司と働きたいから』というとても個人的な理由が容認される時代になったことに驚いた。競争の末、差別化を図れるためには人的資本の強化が大事だと。自分を成長させ、情熱をもって働くことが、会社にとっても自分にとっても良いことなのだと改めて認識できる良いきっかけになりました」
「人的資本経営の言葉をなんとなく理解した気になっていたが、歴史的な背景も含めその意義の重要性を捉えるきっかけになりました。マネージャークラスにおける課題感等、実務的な視点からの質疑応答についても共感できる部分が多く、参考になりました」
「企業の価値向上や差別化の源泉は、人材にしかないという言葉です。戦略を起点として考えるのか、人を起点として戦略を考えるかで会社経営にとって重要な判断だと実感でき、より印象に残りました。また、多様な人材の考え方、視点、経験などを活用し、創発的イノベーションを価値創造につなげた事例は、他にどのようなことがあるか大変、興味を持ちました」
「経営視点での企業価値向上につながる実践、考え方が非常に解りやすい内容でした。多様性・公平性・包摂性を活かした組織づくりとはどういう事かもよく理解できました」

